夜汽車は山陰へ

2018.3.2~4.

夜行寝台特急というより 「夜汽車」という方が情感がある

少しだけ心を癒したい旅に出るならなおさら「夜汽車」・・・

流れゆく街の 穏やかな夜の景色を眺めながら 酒を飲んで旅をする

心の琴糸をかき鳴らす旅情

友達に招かれて 山陰の郷愁に浸ってきました

サンライズ出雲

今回の山陰旅行は鳥取県に住む「ロングさん」という、このホームページを見てくださっている人に突然、降ってわいたように誘われたことが発端です。「山陰かぁ、いいな。行ってみたい」そう思いました。どうせ行くなら以前から、そこはかとなく気にかかっていた「サンライズ出雲」という夜行寝台特急で、夜汽車の旅をしたいものだ、という考えに突き動かされ、チケットを購入しました。夜行寝台特急、いまでは、常設のものは、少なくなりましたよね。それだけにいまでも活躍している寝台特急は人気もあるのでしょうが、無事チケットが取れた時には「やった」と思いました。東京駅の行き先案内の電光掲示板を見て、不思議な気がしました。東海道線の行き先表示に交じって、「出雲市」が表示されているのです。随分と長い距離を行くものです。22:00に東京駅を発車した夜汽車は、俺の第一の目的地である松江を目指します。

足を伸ばして寝台に寝そべり、流れゆく車窓の夜の情景を見ながら飲む酒は格別です。酒と旅のコラボレーションです。心地よい眠気に包まれて、静岡に停車する前に眠ってました。派手な音楽で「起こされる」岡山まで、全く目が覚めませんでした。

伯備線

山陰に向かう列車と、高松に向かう列車は連結されて走り、岡山で切り離しになります。行き先の違う車輛に乗っていないかを、確認させるけたたましいアナウンスで、嫌でも起きてしまいます。俺は岡山以降は起きて車窓を見ていたかったので、実にタイムリーなアナウンスです。会社の同僚が、この「サンライズ号」で旅したことがあるのですが、「個室は思った以上に空気が乾燥するよ」と言っておりましたが、その通りでした。切り離しに時間を要するため、停車時間が長い岡山駅でホームに降りて水を買い、水分補給して、乾燥のケアをしました。なぜ岡山で起きていたかったかというと、伯備線を体験するのが楽しみだったからです。山陽と山陰を縦につなぐ連絡路線としては一番太いパイプであるものの、険しい山間や急流を縫うように走る路線と聞いておりました。数年前に行った「秘境駅号の旅」が追体験できるとワクワクしていました。伯備線を通ったが朝の7時以降だったので、朝日を受けて、山は輝き、川は光を反射して、本当にきれいです。

余談ですが、俺の家から最寄り駅の途中に弓道場があり、そこの師範が高梁市の出身で、「備中高梁館」が併設され産地直送の野菜や岡山の地酒など,売っていて「高梁市ってどんなところなんだろうか?」と前を通る時、意識しておりました。また、飲み友達に新見市出身の人がいて、「山深いところだよ」なんて言っていました。車窓からですが、高梁も新見も見ることができました。

松江駅

着きました、松江駅です。朝の9:30です。東京駅を出発してから、11時間半です。はるばる来たものです。島根県の県庁所在地の駅だけあってきれいです。広い通路があり、そこのコーヒーショップでトーストで朝ごはんしました。

風流堂~銘菓「山川」をいただく

城があって、かつて粋人の殿様がいて、茶道を奨励した。それに伴い菓子が発達する。この図式です。茶人大名として名高い松平不昧公のもとで脈々と作り続けられてきた銘菓「山川」を楽しみにしてきました。上品な甘さの、少し歯ごたえのある堅さの落雁です。抹茶を点ててくれたのですが、苦みが菓子の甘さを引き立てて、本当に美味しいです。加賀の「長生殿」を過去にいただきましたので、日本三大銘菓の内、2つを制覇したことになります。店員さんは俺の障害を気遣い、無理のない安全なルートでお城に行くコースを説明してくれました。松江の人は親切です。

松江城

大きな橋を渡り、島根県庁を左に見て、やってきました、「松江城」です。坂道が続きますが、転ぶことなく天守閣の下まで登り切りました。さわやかな達成感です。天守閣は国宝だけあって、見事な眺めです。天守閣が国宝に指定されている城は5つしかないそうです。木製の、なんともめずらしいシャチホコもみることができました。また、市内屈指の桜の名所だそうです。城と満開の桜のコラボレーションは素敵でしょうね。桜の時期にも来たいものです。

堀川あたり

松江城を囲むようにめぐらされた水のある風景・・・堀川を船で巡るコースもあるようです。俺は歩いて、水と木々の織り成す景観を味わいました。水って、景色を素敵に演出してくれます。時代考証が生きてるようなレトロな店も点在し、入ってみたかったのですが、時間が押しているのが、何とも残念でした。

小泉八雲旧居

「のっぺらぼう」や「むじな」といった怪談話で有名な小泉八雲・・日本を愛し、日本の文化を西洋に伝えた人ですね。帰化する前は「ラフカディオ・ハーン」という名前でした。ちなみに祖国はギリシャだと、知っていましたか? 帰化してこの地に住んだのだと思うと、日本への「思い入れ」を強く感じます。コテコテの関西人のオバチャンが大勢で見学していて写真を取ってくれました。

塩見縄手

城下町特有の景観をたたえる武家屋敷地区のストリートです。縄のように一筋に伸びた通りという意味で「縄手」というそうです。武家屋敷の中は、あいにく整備中で見学できなかったのですが、その屋敷群の前に連なる道の風情、よすぎです。お侍さんが帯刀して出てくるような幻想をい抱きます。情感に浸れる時空間です。

宍道湖

悠然と水を湛える淡水湖です。シジミが有名ですが、それ以上に有名なのが、夕陽ですね。あいにく俺は午後1:30に来てしまいました。次の目的地である出雲大社へ向かうために「しんじ湖温泉駅」に来て、すぐの湖畔から、眺めていました。松江を離れますが、今度来る時は松江に宿を取って宍道湖の夕陽を見たいものです。

一畑電車

地元の人に「バタデン」の愛称で親しまれている島根のローカルな私鉄電車ですね。「いなかの電車」という感覚が、かえって新鮮な郷愁をそそります。都会では絶対に味わえない「暖かな乗車風景」です。自転車を車内に持ち込むこともできるのです。ロードサイクルを楽しむ人が、自転車を担いで乗っていました。宍道湖に沿って走るので、車窓の眺めも素敵です。聞くところによると、この電鉄では自分で電車を運転する体験をさせてくれる企画があるそうで、それを体験しに何度も山陰を訪れて「山陰ツウ」になった知り合いがいます。そのことを、今回、旅に誘ってくれたロングさんに旅立ち前にメールで話したら「乗り物好きなんだね」と笑っておりました。その人が運転する車両に乗ってみたいものだと想像して、ローカルな車内で俺も笑いました。

出雲大社

伊勢神宮と出雲大社を直線で結ぶ。その直線の中心点に当時の日本の権威が置かれている。伊勢が日が出る処なのに対して、出雲は日が没する処として信仰された。陰陽二元で考えると伊勢が陽、出雲が陰を司どっていた・・・大学の民俗学の講義で、そんなふうに習ったことがあります。写真でしか見たことのない極太のしめ縄を実際に見ることができて感無量です。拝殿には数段の階段があるのですが、ハンデがある人でも安全に参拝できるように、脇にはバリアフリーのスロープがあるのです。拝殿で、自分の安寧と、弟一家の弥栄を祈念しました。「縁結びの神」だから、今からでも人生を一緒に歩いていける人が現れるのも、お願いしました。

テレビで見たことのある皇居の宮中三殿と同じ造りです。古来神道の伝統的な建造様式なのですね。

出雲そば

大きな神社の参道には、賑やかな店が連なるのが定番ですね。まず参拝してから、ご賞味にあずかるのが作法だと記憶しておりました。楽しみにしていた出雲そばです。今回旅にいざなってくれたロングさんのおすすめのそば処「えにし」です。混んでおりましたが、一人分の席をすぐに用意してくれました。割り子ではなく、「三色盛り」を食べました。シコシコした歯ざわりと、つるっとしたのど越しで、とても美味しかったです。

山陰本線

出雲大社参拝を終え、そばをいただいた俺は、JR出雲市駅から16:37の山陰本線に乗って、ロングさんの待つ米子を目指します。初めて、が多い山陰で、この山陰本線に乗るのもはじめてです。(以前、萩で乗ったことがあるかもしれません)車内の段差を心配してくれる人がいましたが、駅員の介助も必要とせず、一人で難なく乗り降りできました。やはり宍道湖沿いの眺めが素敵でした。