秘境駅号の旅
2014年11月22,23日
何故こんなところに駅があるのだろう?
誰が利用するのだろう?
そんな素朴な疑問は、画像から伝わる郷愁と相まって、「そこに行ってみたい」という強い気持ちへと昇華していきました。
病気をものともせず、頑張ることによって暮らしが安定して落ち着いたら、絶対行くと心に決めていた秘境駅号の旅・・・それは、発病→挫折→復活の図式を自分で自分に確かめる旅です。
なぁんて、綺麗な景色を見ながら、普段行けないようなところに行きたいという好奇心の発露です。
特別企画列車・秘境駅号に乗ってきました。
列車は6つの秘境駅に「会わせてくれる」ために走ります。
「6つのスターたち」・・普段行けないような駅に行くための列車は、予定通りに飯田駅を13:08に出発しました。ちなみに車掌さんが驚くほどのイケメンでした。
最初の秘境駅「千代駅」です。秘境度ランキングがあまり高くないので、停車時間も短く、乗客のほとんど全員が一斉に降りたので、少し慌てました。駅の表示板を撮影するのがやっとで、自分を入れて相方に撮ってもらうまでの時間がありませんでした。それでも表示板に触ることはできました。この表示板に触ると長生きができるそうです。
2つ目の秘境駅「金野駅」です。1つ前の千代駅同様、停車時間が短い上に、乗客がどっと降りたので、ごったがえしました。でも、触ると金運に恵まれるという駅の表示板の「金」の文字には触れることができました。金運が上昇するといいです
念願の「田本駅」です。秘境度ランキングも第4位なので停車時間も長く、要領も得たので撮影もスムーズです。とはいうものの、真ん中の写真は、電車の影になる部分と光が当たる部分がはっきり分かれて、何とも珍奇ですね。この駅、絶壁の駅として秘境駅の中でも有名ですね。ホームはかなり狭く、絶壁に張り付くように存在します。頭上には大きな岩があり、撤去作業が困難なため、コンクリートの防御壁で押さえているそうです。ホームの反対側は、一面、天竜川の激流が流れています。まさに断崖絶壁の駅です。俺が最も楽しみにしていた駅です。この駅に立つことができたときには、難病を宣告されてからの苦しかった時期が払拭されるような気がして、思わず泣きそうになりました。きちんと自分の足で歩いて、この絶壁の駅に立つことができたという感慨でいっぱいでした。
秘境駅を探訪するだけではなく、車窓からの景色も見どころです。紅葉にはまだ早かったものの、山の黄色く色づいた葉と常緑の葉の対比、川の色、そして太陽光・・・この3つの織りなす自然の造形美。3つのどれか1つでも欠けたらこの絶景は得られないと思います。
秘境駅めぐりも佳境に入ってきました。「為栗駅」です。「してぐり」と読みます。狭い駅のホームに立つと、前面に山と川の風景が見えます。日の光に照らされた山の景観は本当に綺麗です。柵を新しくする工事をしていて、作業員がいたのは現実的で、少し残念でしたが。駅から少し歩いたところに「天竜橋」という吊り橋があります。その橋は自動車の通行ができないので、自動車を利用する場合は、その吊り橋を渡って、天竜川の対岸へ行かなければならないそうです。俺はもともと高いところが苦手なので、行かなかったのですが、相方はスタスタ歩いて、揺れて怖いと言われる吊り橋をホイホイ渡って来てました。その間、俺はホームで撮影をしてました。近くにいた年配の女性にシャッターを押してくれるように頼んだら、何を間違えたか、そのおばさん、自撮りモードにして、しかも連射してしまったのです。中年女性のテカテカした顔のアップの画像が10枚くらいできてしまい、唖然としました。すぐに削除して、メカに詳しそうな若い男の人に撮ってもらいました。ちょうどそのころ、相方が吊り橋から帰ってきて、列車の出発時刻になりました。
信州最南端に位置する「中井侍駅」です。付近にはたった一軒の民家があります。駅をはさんで反対側の斜面には茶畑が点在し、「中井侍銘茶」と呼ばれる良質のお茶が収穫されるそうです。近くには、中部電力早木戸変電所があります。昔、ウルトラマンで見たネロンガのシーンを思い出します。古いですね。
「6つのスターたち」・・最後は秘境駅の中でも特に有名で、ランキングも第2位の「小和田駅」です。皇太子妃・雅子さまがご成婚の折、雅子妃の旧姓が同じ漢字を書くということでウェディングブームになり、この駅で結婚式を挙げたカップルもいたそうです。電車以外、ここに到達する術がないような場所なので、結婚式の当日は一族が挙って飯田線に乗ったのでしょうか・・・ 駅は静岡県に位置しますが、川の対岸は愛知県、さらに川をほんの少しさかのぼれば長野県という3県境が一か所で接する所の駅です。有名な「3県標木」で写真が取れて、感無量です。
人気の高い駅ゆえ、停車時間も20分と長くあり、ゆっくり駅舎を見ることができました。時間が泊まったような廃墟に近い駅舎はかつて、国鉄が「ディスカバー・ジャパン」をPRしていた時期を思い出させます。駅舎の外には、この駅で幸せになることを誓った結婚式の式場跡がありました。そのあたりから天竜川を眺めると、すすきが揺れてました。ちなみに黄色い服の女性は添乗員さんです。
「6つのスターたち」に言葉にならないほどの感動を貰い、列車は17:54に予定通り、豊橋駅に着きました。感動する芝居を見た後のように、爽やかな虚脱感と放心状態に見舞われました。それほど良かったです。新幹線のこだま号で名古屋に向かい、ホテルに荷物を預けてから、名古屋の繁華街に相方とともに繰り出しました。居酒屋に入り、名古屋名物とともに酒を飲みました。今回の旅で、最初に口にする酒です。前日泊まった飯田では全く酒を飲みませんでした。それほど、俺はこの「秘境駅めぐり」に賭けていました。「酒なんかいつでも、東京でも飲める。万全のコンデションで臨みたい」そう決めていました。だから、感動の後、名古屋で飲んだ酒は本当においしかったです。相方と、撮った写真を見ながら、ビールとワインを飲みました。相方が言ってくれました。「ヒデさん、本当にいい笑顔をしている。何かを確実にやり遂げた笑顔だ」泣きそうになるのをビールにむせたフリをして誤魔化しました。
【旅の終わりに】
秘境駅という言葉を知り、その存在を知って、「行ってみたい」と思った時、俺は宣告はされてないものの、確実にこの病気の兆候が顕著になっていました。他人から見ても普通じゃないことがわかるようになった時、仕事を止めざるを得ませんでした。それから、生活に不安を覚える日々が続いて・・・食べること、ひいては生きることを最優先で考えなければならない状況の中、心の片隅にこの秘境駅のことがありました。諦めることなく頑張って、自分の力で生活を安定させることができたら、秘境駅というスターに会いにゆきたい。そう思ってました。多くの人に叱られ、励まされ、応援されて、何とか自力で生活する術を得ることができました。恵まれた環境の、何とも暖かい会社が採用してくれて、生活は安定し、今回、念願が叶って秘境駅の旅ができました。ここまで支えてくれた多くの人に心からお礼を申し上げます。「ありがとうございます」
今回の旅で学んだこと、自然はなんて我慢強いのだろうということです。人間によって汚され、煤けさせられても、川は流れ、山は季節が来ればきちんと葉の色を変える。人間はこうはいきません。気に入らないことがあれば、口も利かない、挨拶もしない、なんて態度を取ります。所詮、人間は自然には勝てないことを再認識しました。と同時に、人間の都合で自然を作り替えようとした報いがいま、来てるのではないかとも思います。
例えば、冬という季節は寒いものです。寒いのが普通です。それを人間が快適に過ごせるように、温度調節できる機器を使うようになりました。結果、二酸化炭素の排出量がどう、とか、地球の温暖化、とか、異常気象といったことが起きてるように、今回の旅を通じて思いました。それに対して、自然に逆らうことなく共存する形である秘境駅たち・・まるで人の訪れを拒否しているようです。「俺に会いたいなら車でなんか来るなよ、電車で来いよ、電車で。エコだよ、エコ。エゴじゃないからな」そう言っているようです。
「大きな感動をありがとう、秘境駅たち! また来るからね」